• ポリテクカレッジ富山(富山職業能力開発短期大学校)居住システム系  横浜 茂之

前報に引き続いて阪神大震災における木造建築物被害原因を検証し,震災を教訓とした基準類が整備されるまでの間の当面の対策私案について報告する。

3.7 カスガイへの過信

モルタル壁を有する新耐震以後の倒壊建物で筋交いをカスガイで固定していた例を10棟以上確認している。図1はカスガイと公庫仕様書に定められたかど金物・山形プレートの引張り試験結果である。カスガイが他の金物に比していかに弱いかが理解される。例えば壁倍率2で幅1.8m,高さ2.7mの構面の筋交いに発生する引張り力は約470kgであるが,カスガイの最大耐力は273kgであり保持しえないことがわかる。

図1
図1

現場のカスガイへの過度な信頼は直ちに改めるべきである。

4.なぜプレハブは強かったのか?

なぜ木造が壊滅的被害を受けるなかでプレハブは無被害だったのか? 一部の新聞報道ではプレハブは屋根にカラーベストを多く用い外壁も軽かったからだとしているが,これは間違いもいいところである。プレハブ住宅の誕生直後は軽い屋根(長尺鉄板),軽い外壁(軽カル板等)であったが,現在のプレハブはカラーベストに加えて瓦屋根を標準仕様とし木片セメント板・ALC板の外壁にタイル張りをしたり,2階の床に遮音性能に優れるALC板を敷くことも当たり前になっている。自重はむしろ在来木造より重いプレハブ住宅が増えている。鉄鋼系プレハブの大手N社は年間3万戸の供給のうち20%は瓦屋根であるという。D社も同じ状況といわれている。これらの大量の瓦屋根を持つプレハブが,たまたま被害を受けなかったと考えるのはおかしい。プレハブのシェア(約15%)に見合う被害棟数が報告されないのは別の原因があるからである。

同一の基準で作られた建物ならば,在来木造であれプレハブであれ強さは同じで違いがあるはずがないと考えるのが一般的であるが,実はこの考え方が間違っている。同一の基準(新耐震設計法)で設計しても設計者の設計方針とプレハブ各社の構法でできあがった住宅は全く違う耐震性能の建物になる。

話を軽量鉄骨造のプレハブD社に絞って進める。この会社の構法は軽量鉄骨の枠組みに木片セメント板(厚さ12mm)を張っている。外壁を固定する際には鋼製のビスあるいは鉄釘(防錆処理済み)とエポキシ系の接着剤を用いている(図2参照)。

図2
図2

軽量鉄骨の枠組みの中に筋交い(ブレース)を内蔵したパネルを耐力パネル,内蔵していないパネルを非耐力パネルと坪んでいる。外壁に面する耐力パネルは1枚(幅910mm)当たり1100kg程度の地震力,風圧力を負担できる設計になっている。パネルの枚数Nは新耐震設計法で計算された地震力と風圧力の大きいほうの値Q(単位kg)に対して次の式から枚数を定める。

N=Q/1100(枚)

ここまででも,在来木造のように非耐力壁に耐力壁の1/3の地震力を負担させることはしていない。さらに,大きな違いはこのときに外壁の負担力を見込むか否かである。軽量鉄骨造のプレハブの場合,外壁に使用されている材料が地震力や風圧力を負担できる材料でも,その効果を見込むことは絶対にしない。しかし,開口のない木片セメント板12mmの非耐力パネルに実験室で水平力を加えると,幅910mmの非耐力パネルで約1000kgの負担をしていることがわかっている。つまり,設計上考慮されていない非耐力パネルでも耐力パネルの筋交いと同等の耐震力を負担できるのである。耐力パネルは設計では,1100kgしか負担できないとして計算しているが,実際にはその約2倍の2100kgの負担が可能となっている(図3参照)。

図3
図3

耐力パネルの設計上の負担力と実際の負担力の差は,プレハブ住宅の耐震性能に大きく影響する。例えば図4の外壁線は設計上は耐力パネル2枚で2200kgの地震力しか負担できないとしているが,実際はその3倍の負担が可能である。これに加えて内側の石膏ボードや化粧合板の負担余力,さらに設計者がバランスを見て余分に配置する計算外の耐力壁がある。このタイプのプレハブ住宅(普及タイプで写真10のタイプ)は今回の阪神大震災はもちろん,宮城県沖地震等の大地震に対しても被害は皆無であつた。

図4
図4

一方,外壁・床にALC板やセラミックスを用いた高級住宅がプレハブで建築されている。自重は在来木造住宅の約2倍にもなる。重い住宅が被害を受けるとしたなら一番最初に被害を受けるべきものであったが被害は伝えられていない。このタイプのプレハブ住宅は,外壁材(ALC板)は住宅の骨組みと完全に分かれていて,骨組みが変形しても外壁材はスライドする仕組みになっている(図5参照)。したがって,骨組みがダメージを受けていても外観上は無被害に見える設計になっている。先のタイプのプレハブと違い外壁材には地震力の負担はほとんど望めない。実はこのタイプの住宅は室内のクロスが剥がれたり筋交いの降伏といった部分的な被害が出ている。大地震時に建物の被害がこの程度ですんだことは設計・施工・品質管理が正しく行われているからであり,プレハブ住宅は工業化住宅と呼ぶにふさわしい内容になっているように思う。

図5
図5

木ずりに地震力や風圧力を負担させるという設計は,木ずりの変形を前提とした設計であり,木ずりが変形すればモルタル壁にひび割れが入るのは設計上当たり前のことである。今後は,このような設計は慎むべきではないかと考えている。

5.在来木造住宅の耐震性能の向上私案

今回の阪神大震災は,現在の耐震設計基準は専門家にはむだのない考え方であるが設計の通りの状況(大地震時に潰れないまでも傾いたり損傷を受けたりする)が,マイホームで現実となればいかに多くの苦痛をユーザーに与えるかを見せつけた。住宅やマンション・アパートが二度とあのような光景にならないように技術者は取り組む必要がある。

阪神大震災で倒壊した在来木造住宅は,老朽化していたものや平面計画・立面計画・施工に欠陥を有する住宅が多かった。しかし,在来木造の耐震性能がプレハブ(工業化住宅)より見劣りすることは阪神大震災が実証した事実であり,在来木造のメーカーや研究者は謙虚にならねばならない。本小論では,在来木造住宅をプレハブ並みの構造力学に忠実な構造体とすべく下記の提案を行う。

① 在来木造軸組構法の壁量(耐震上有効な壁の長さを各階床面積で除した値)を現行基準値の1.5倍とする。この対策は現行基準法の壁量が非耐力壁に地震力の1/3を負担させていることを是正するためである。

② 在来木造軸組構法の壁量を現在の0.8倍に評価する。現在の在来木造耐力壁の壁倍率は,部材角1/120ラジアンの荷重を3/4倍して,(130kg×壁の長さ)で除して決められることが多いが,鉄鋼系のプレハブでは部材角1/200ラジアンで設計荷重を決定しているメーカーがほとんどである。例えば高さ300cmの耐力壁を考えると木造は300/120=2.5cmまで変形を是認しているのに対し,鉄鋼系のプレハブでは300/200=1.5cmの変形しか認めていない。変形が1/150ラジアンを超えればサッシや外装材の損傷がみられるのは周知の事実である。在来木造も最低限部材角1/150ラジアンの変形で壁倍率を決定すべきである。荷重と変位が線形関係にあるとして120/150=0.8倍を得る。

③ 上記の①②の規程を筋交いのみで満足させる。木ずりや構造用合板,センチュリーボード,繊維板等を壁量計算では見込まない。この対策は,先のプレハブが地震に対して強かった現実からと,現在の在来木造住宅の建築現場において,2×4構法が構造用合板で主に地震力を処理しているのに対して,在来軸組構法の住宅は筋交いで地震力を処理しているという認識が大工の間に強く浸透しており,構造用合板と筋交いの双方を必要とする設計は現場の混乱と施工ミスを招く大きな原因になる可能性が大きいからである。

④ 住宅金融公庫標準仕様を守り,出隅柱や必要な柱を通し柱とし,土台と柱,胴差しと柱,軒桁と柱は接合金物で完全に補強する。カスガイで柱や筋交いと胴差し・土台・軒桁との固定を禁止する。

⑤ 接合金物の固定や部材相互の連結に用いる釘は,1階部分はすべて溶融亜鉛メッキを施した耐久性に富む釘を用いる。木材の防腐・防蟻処理は無論のことである。

⑥ 南面や道路面に極端に大きな開口を設けない。大きな開口を設ける場合でも外壁長さの1/5は耐力壁とする。この規程はプレハブ住宅の判定内規に定められており在来木造の平面計画でもぜひとりいれてほしい規程である。

⑦ 各壁線の耐力壁の配置はゾーニング法に基づいて配置する(図6参照)。

図6
図6

⑧ 1階のアンカーボルトを固定する座金はt=6mm,53×53以上の物を用いる。

建設現場ではアンカーボルトと土台の固定にt=3.2mm,40×40の座金を用いることがあるが,このタイプの座金は引抜き力1800kg程度で土台にめり込んでしまう。提案する座金は現在でもZ印の商品として市場に出回っており,引抜き耐力は2400kg(樹種:米松)程度が見込める。

⑨ 1階と2階の耐力壁が同一位置にある場合で,1階と2階の壁倍率の和が7以上の場合には,アンカーボルトの径をM16とするかM12のアンカーボルト2本を用いる。この対策は軸組の筋交いの引抜き力から計算で求めた必要アンカーボルト径である。

⑩ 出隅・入隅部は耐力壁が集中し,軸力も大きくなるのでM12のアンカーボルトを2本以上必ず設け,かつ,通柱は多雪区域にあっては12cm角以上を用いる。

前述の①~⑩を厳守すれば在来木造軸組構法の安全率は,ほぼ工業化住宅と同じになる。建物の最大耐力および剛性(住宅の変形しにくさ)は筋交いのみで計算すれば,現行基準法で作られた住宅の2.0倍以上,雑壁や開口を有する非耐力壁を加味すると平面プランにもよるが3~4倍程度の値となる。したがって,中小地震200ガル程度の加速度に対して上記の対策を講じれば,阪神大震災の加速度600~800ガル程度の地震でほぼ無被害の在来軸組構法の住宅を供給することが可能となる。

6.公共建築物と商店街の耐震性能向上について

6.1 公共建築物への用途係数の適用

今回の震災では被災者を収容すべき病院や市役所,避難場所となるべき公共建築物が地震で倒壊もしくは使用不能となってしまい,避難場所の確保と誘導および被災者に対する援助の遅れが大きな問題となった。公共建築物の安全性が一般の建築物と同じく大地震で大破まで認めていてよいものなのか? 旧基準の建物は早急に耐震診断をして必要ならば補強をしてやる必要があるのではないか?

この件に関しては過去に重要な提案が2件あった、我が国の地盤の権威である大崎博士が,昭和43年12月公表された『建築構造物の安全性と建築基準法の改正』という提案文がその一つである。大崎博士は,その論文の中で公共建築物は建物の用途係数を導入して安全を見込んだ設計をすることを提案しておられた。そして,その3年後にロサンゼルス地震が発生し,その地震の調査結果から再び用途係数の導入の必要性を感じ,我が国の現在の耐震設計基準の改訂作業段階で提案をしておられる。しかし,大崎博士の提案のような形で新耐震設計法に反映されることはなかった。大崎博士によれば,ロサンゼルス地震で市民を救うべき救急車の車庫が潰れ救急車が出動不能となったことや,当時のアメリカの最新技術で設計された病院が潰れ逆に被害者を出していたことも報告されていた。

この件に関するもう一つの提案は1969年7月に建築基準法・施行令改正案として建設省建築研究所が公表した用途係数の提案である(表1参照)。この提案も新耐震設計法が公布されるまでに姿を消した。地震力が正確に把握できていれば公共建築物とそれ以外を区別する必要はないとする考え方が優勢だったことと,日本の社会が研究者の冷静な判断のみで動かない組織になっているためと私は考えている。

表1
表1

一般市民は大地震時に傾いて使用不能になるような公共建築物を望んでいない。したがって用途係数は導入すべきであるし公共性の高い建築物では1.5程度の値は最低限必要と考えている。

早急に病院・役場・学校・消防署・警察署といった公共性の高い建築物は耐震診断後補強も行う必要がある。静岡県では18年前にすべての公共建築物を耐震診断し補強も終了している。また,小学生が簡単なリーフレットに従って自分の家の耐震診断を行っており各戸別にも指導が行われている。

6.2 古い商店街への集団耐震化

耐震性能を向上させようとしても古い商店街全部の建て替えを考えていてはいつになるかわからない。このため,当面の対策として商店街の両端と中央部に数棟分の地震力を負担しうるRC造の建物を新築し商店街全体に加わる横力を負担させ,写真2でみられた商店街全体の将棋倒し的な倒壊の防止と火災による商店街全体の延焼の防止も急務と考えられる(図7参照)。

図7
図7

7.結論

今後,一般のユーザーの方に普及させなければならないのは上記の事項を厳守した耐震住宅と計算根拠のない工務店が建築しているKKD住宅(勘と経験と度胸で建った住宅)の差別化である。例えば,冨山県内で新築されている在来木造住宅でも,建築基準法で定められた壁量計算がされていない建物が多数ある。

阪神大震災の最大の教訓は,正しく設計し正しく施工された建築物に被害は少ないことである。阪神大震災の犠牲者の方の死をむだにしないためにも,業界や行政はもとより教育・訓練機関の全力をあげて安心できる住まいを供給することが大切である。

〈参考文献〉

  1. 1) 久田・大森:建物の耐震診断入門,鹿島出版会,1983.4.
  2. 2) 大崎:新耐震のめざすもの一将来への要望,建築雑誌,1983.3.
  3. 3) 日本建築学会関東支部編:耐震構造の設計,1981.6.
  4. 4) 大和ハウス工業株式会社:工業化住宅認定等別添図書ダイワハウスG型,1989.11.
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